超人的ともいうべき努力

梅謙次郎

きょうは「民法の父」と称された私法学梅謙次郎(うめ けんじろう)の誕生日だ。、br>1860(万延元)年生誕〜1910(明治43)年逝去(50歳)。

松江出雲(現 島根県松江市)松平侯の侍医の次男として生まれた。幼少より俊秀の誉れ高く、藩校の修道館に入り勉学に励むが、明治維新後、士族制度の廃止により、一家は零落(れいらく:おちぶれること)した。

一発奮起して上京した後は、大道の夜店で足袋・手拭などを売りながらカンテラの灯りで書見に励むなどの刻苦精勤(こっくせいきん:非常に苦労し休まず学業に励むこと)し、東京外国語学校仏語科を最優等で卒業した。その後司法省法学校も首席で卒業した。
卒業後は、司法省御用掛・文部省御用掛を経て、1885(明治18)年25歳の時、東京法学校(後の東京帝国大学法科大学)の教授となり、フランス・ドイツに留学した。フランスのリヨン大学から「和解論」(Dela Transaction)によってドクトゥール・アン・ドロワ(法学博士)の学位を授与され、さらにこれによってリヨン市からヴェルメイユ賞碑が贈られ、同論文の市費出版という名誉も受けた。またドイツのベルリン大学で一年研鑽を積んだ。

この後、梅 博士は、東京帝国大学法科大学教授に専念するつもりで、1890(明治23)年30歳の時、5年ぶりに横浜港に帰国したところ、船内まで東京法学社校長 富井政章(とみいまさあき、後に法政大学総長・法学博士)や本野一郎(もとの いちろう、同 講師、後に外務大臣・法学博士)が出迎え、是非とも東京法学社へ来て欲しいとの懇請があり、これに応えた。

1890(明治23)年にフランスの法学者 ボアソナード(何と梅 博士と同じ6月7日生まれ)が想起した民法が公布されたが、その施行を巡って断行派と延期派の間で、1890(明治23)年および1892(明治25)年の2回にわたって民法典と商法典の施行をめぐるいわゆる「法典論争(民法典論争)」が展開された。

梅 博士は断行派の中心人物として、穂積八策(ほずみ やつか)らの民法施行延期論に反対し、即時断行を主唱、フランス民法学の権威として自由主義的法学者の面目を発揮した。しかしながら、結果は延期派に敗れ、フランス民法の影響を強く受けたボワソナードの旧民法が廃止された。

明治民法は、1892(明治25)年、穂積陳重(ほづみ のぶしげ)、富井政章、梅 博士が起草委員となり、ドイツ民法草案にならってつくられることになった。また梅 博士は、田部芳(たべ よし)、岡野敬次郎らとともに商法を立案・起草した。これら大業により、「空前絶後の立法家」「先天的な法律家」と称された。

梅 博士は、東京法学社では民法、商法を講じた。1903(明治36)年43歳の時、専門学校令の公布にともない東京法学社から、財団法人 和仏法律学校(法政大学の前身)と名称を変え教授・学監(現 総長)を兼ねた。

1906(明治39)年、韓国統監 伊藤博文 (ひろぶみ)の招請により韓国法律顧問となり、韓国の法典編纂(へんさん)に加わり大きな業績を残した。
1910(明治43)年京城(けいじょう=現ソウル)で腸チフスのため急逝した。
梅 博士は急逝するまで20年余、多忙の中を割いて和仏法律学校で働き、その間給与等は一切受け取らなかった。一方では学生の試験答案にいちいち目を通したばかりでなく、学生の就職まで奔走し正に超人的ともいうべき努力をした。

また、梅 博士は帝国大学教授、内閣恩給局長、法制局長官、文部省総務長官などの要職を次々と歴任した。文部省総務長官の時、一般の面会日は火曜日と決め、役所のドアには『面会日火曜日』と書いて貼ってあったが、そのわきに『但し法政大学並びに校友会員はこの限りにあらず』と書いてあったそうだ。

主要著書として『民法要義』『民法講義』『商法義解』などがある。なかでも『民法要義』は立法者、かつ学者による当時唯一の注釈書であった。
1999年民法・商法施行100周年を記念して発行された郵便切手には1895(明治28)年に民法草案脱稿の際の記念として和服正装で撮影された写真(富井、梅、穂積)がデザインさている。また1952年には梅 博士だけの文化人シリーズ切手も発行されている。

梅謙次郎は、偉大な法学者であり、ガチガチの堅物かとも思えるが、留学先で賞されたフランスの民法を強く支持したり、自分の務める学校関係者を優遇したりと、情に厚い面もあったようだ。

企業においても、同窓であったり同部署の人をひいきめに見るのは、ある程度やむをえないが、それによって他の人の意欲がそがれることも理解しなくてはいけない。
またそのようにして優遇された人は、優遇した人が思うほど喜ばないものだ。


梅謙次郎の本
  最近判例批評
  民法 明治29年 債権 日本立法資料全集 3冊セット
  民法要義 (巻之1) (復刻叢書 (法律学篇 12-1)):(5)
  民法総則 (復刻叢書―法律学篇)
  博士梅謙次郎―伝記・梅謙次郎 (伝記叢書 (274))
博士梅謙次郎―伝記・梅謙次郎 (伝記叢書 (274))