現代の民話として

星新一

きょうはショートショートの神様 星新一(ほし しんいち、本名:星親一)の誕生日だ。1926(大正15)年生誕〜1999(平成11)年逝去(73歳)。

東京の本郷(文京区)で星製薬 創業者 星一の長男として生まれる。母方の祖父は日本人類学者の祖で東京帝国大学名誉教授 小金井良精、祖母は森鴎外実妹歌人 小金井喜美子で、この夫妻と一緒に暮らし、多大な影響を受けた。

1939(昭和14)年12歳で東京女子高等師範の付属小学校を卒業。この頃江戸川乱歩海野十三などを読んだ。その後、東京高校に進み、1945(昭和20)年 東京帝国大学農学部農芸化学科へ入学。1948(昭和23)年に卒業して大学院へ入った。
1951(昭和26)年1月19日に父 星一がロサンゼルスで客死。大学院を中退し、24歳で、星製薬を引きついだが、不良債権の山、多額の税金未納、社員の老齢化、設備の老朽、経営不振で、会社を他人にまかせるまで、悪夢のような数年間をすごした。新聞を読む暇もなく、朝鮮半島での戦乱さえ印象に残っていないようだ。

「・・・この数年間のことは思い出したくもない。わたしの性格に閉鎖的なところがあるのは、そのためである」。1957(昭和32)年31歳の時 社長を退いた。
この頃の経験は、星の作品になっていない。

星は借金の整理でかなりの苦労をしたが、その挫折の中で、SF同人誌「宇宙塵」を主宰し書き始めた。1957(昭和32)年、「宇宙塵」2号に書いた「セキストラ」が江戸川乱歩編集の「宝石」11月号に転載となり、作家活動に入った。

1959(昭和34)年33歳の時、最初の著書『生命のふしぎ』(新潮社)を著した。少年向けの科学解説書であった。1961(昭和36)年35歳の時に出した最初のショートショート(短篇集)『人造美人』(新潮社)が直木賞候補となった。のちに『ボッコちゃん』と改題再編集され、新潮文庫に収録された。

同年3月11日、東京有楽町の日活会館で挙式。新婦 村尾香代子は、学習院大仏文科出身で、小牧バレエ団のバレリーナ。新婚旅行は南紀一周だった。
1962(昭和37)年7月28日長女 ユリカ誕生。1963(昭和38)年10月7日次女 マリナ誕生。

1962(昭和37)年、フレドリック・ブラウンの短篇集『さあ気ちがいになりなさい』を翻訳(早川書房)。星は、ブラウンと自分の作風の違いに触れ、「ブラウンのショートショートはアイデアのみで勝負していて、ストーリーをあまりひねらない」という。つまり、星のショートショートはかなりひねったストーリーになっている。

1967(昭和42)年41歳の時、父親の星一と官僚との闘いを描いた伝記小説『人民は弱し、官吏は強し』(文藝春秋)を出版した。『明治・父・アメリカ』(筑摩書房 1957年)は、父 星一の若い頃を描いたもので、『人民は弱し、官吏は強し』の前編にあたる。

『進化した猿たち』(早川書房 1968年)を出版。この年、『妄想銀行』(新潮社 1967年)で日本推理作家協会賞を受賞した。SF長編『声の網』(講談社 1970年)、伝記『祖父・小金井良精の記』(河出書房新社 1974年)、『明治の人物誌』(新潮社 1978年)を出版。『星新一の作品集』全18巻 刊行開始(新潮社)。

1983(昭和58)年57歳の時、ショートショート創作1001篇を達成した。以降は「もう年だから」と新作はほとんど書かず、「旧作を現代の民話として、より古びないものにしたい」と、文庫版の改訂作業を続けた。『つねならぬ話』(新潮社1988年)。1夜にして誕生した14篇「ささやかれた物語」を初めとする作品集。

1997年12月30日東京都内の病院で間質性肺炎のため亡くなった。
星の生み出したショートショート作品は機知と風刺に富んだ作風で日本だけでなく世界中に多くのファンを抱え、海外にも広く紹介されている。

星は小松左京筒井康隆らとともに日本SF小説の長老的存在だった人物で、ショートショート(掌編小説)の創始者アメリカひとコマ漫画の収集家でもあった。

作家 筒井康隆の言葉:「約四十年のお付き合いで、どれだけ影響を受けたかわからない。星さんのショートショートは透明感と芸術性とユーモアを兼ね備え、万人に夢を与えた。その発想の源泉は、常識はなぜ常識なのか、という根源的な問い掛けだった。若い読者には、亡くなった手塚治虫藤子・F・不二雄と並んで、少年時代のヒーローだったという人が多い。今後もっと再評価されるべきでしょう」

SF作家 豊田有恒の言葉:「日本SF界の草分け的な存在。千編を超える短編小説は一から十まで『星さんの世界』で、資料の引用やだれかの著書からの受け売りの部分は一切なかった。オリジナリティーの点ではだれにも比べられない、アイデアの権化のような人だった。私生活でも、大変ユーモアがあり、よく『星さんといると冗談で笑い殺される』と言われていたのを思い出します」

作家 北杜夫の言葉:「SFの間口を広げファンタジーで包み込み、多くの読者を獲得した功績は実に大きい。科学技術の進歩で、時代に合わなくなった作品は、どんどん書き直しているとご本人から聞いていました。以前はバーなどでよくご一緒して楽しかった。ビールだけで途方もなく面白い放言をなさった。そう病の時の私が議論して負けたのは、星さんだけです」

星新一は、製薬会社の跡継ぎであったが、それはうまくいかなかった。祖父夫妻の影響からかSF小説を書き始め、ショートショートという分野を創作、世界的な作家になった。文章を短くまとめるのは難しいものだが、彼の作品は夢があり非常にわかりやすく、オチがわかったときの感動も大きい。

企業においても、文章は短くわかりやすくまとめるのが鉄則だが、小説と違う点は、最初に結論があるということだ。
表やグラフ、写真や図を使うとより理解しやすくなる。


星新一のことば
  「未来は、もう過去のものだ」


星新一の本
  ボッコちゃん (新潮文庫)
  おーいでてこーい―ショートショート傑作選 (講談社青い鳥文庫―SLシリーズ)
  人民は弱し 官吏は強し (新潮文庫)
  明治の人物誌 (新潮文庫)
  あのころの未来―星新一の預言 (新潮文庫)
  

あのころの未来―星新一の預言 (新潮文庫)明治の人物誌 (新潮文庫)おーいでてこーい―ショートショート傑作選 (講談社青い鳥文庫―SLシリーズ)