革命に化学者は必要ない

ラボアジェ夫妻

きょうは、質量保存の法則を発見したフランスの化学者 A・L・ラボアジェ(Antoine-Laurent Lavoisier)の誕生日だ。
1743(寛保3)年生誕〜1794(寛政6)年逝去(50歳)。

パリに生まれた。法律を学んだが後に天文学・化学・鉱物学などを学んだ。
1768年25歳の時に国税庁徴税請負人いわゆる「取立て屋」の助手となり、後に正式の徴税請負人となった。

暴力を使い、国から指示された必要額の数倍を徴集し、上乗せ分を手数料としてピンはねする…という図式が当時もあった。32歳の時には、母親の遺産の一部でその「徴税組合」に投資し、幹部の一人となった。徴税組合から入る年間10万フランという収入が、実験道具や薬品の購入にあてられていた。
彼はその資金を基に数々の実験を行った。
1772年29歳の時、セッコウや雷について研究した。燃焼についての研究は、硫黄とリンが燃焼によって重量が増加することを確認した。

1775年32歳の時、彼は酸素を発見し、命名した。ギリシア語の「刺す」という意味のOXUSからOXYGINEと呼ぶのが適当とした。酸素を含まない酸もあるので必ずしも正しくはないが、日本語の「酸素」の訳は彼の主張を正しく取り入れている。

1775年、火薬監督官に任命された。1778年に化学アカデミー会員となった。
1777年34歳の時、空気は5分の1の酸素と5分の4の窒素から成り立つことを確かめた。

同年、呼吸と燃焼が同じ現象であることを示した。
「この燃焼は肺の内部で起こり、この燃焼の結果生じた熱は、肺を通る血管に伝達され、動物の体全体に広がっていく。呼吸の結果、炭素と水素の一部が抜き取られ、そのかわりに特有の熱素が生じる。この熱素は血液の循環によって動物の全ての部分に分配され、体温がほぼ一定に保たれる」

また、測定可能な肉体運動と酸素吸収や二酸化炭素放出で測定した呼吸活動のとの間には、ある定量関係が成立することを明らかにし、精神活動のようなものさえも含む人間のあらゆる種類の活動を定量的に表せる可能性を示した。

燃焼は酸素との化合であることを明らかにした。また、水の組成を明らかにした。
続いて金属の燃焼などを研究し、酸化鉛と木炭とを共に加熱すると重さを失い金属に還元されることを見出した。酸素中で水素を燃焼すると水を生成することを発見した(1783年40歳)。

燃焼はフロジストンによるという従来の考え方を否定した。彼の研究によって合理的化学体系が確立した。
『化学教科書』を刊行し(1789年46歳)、新しい化学命名法、元素概念の確率、化学反応における「質量保存の法則」を確立した。

当時の化学は錬金術色の濃いもので、化学者は、反応後に「何ができたか」にしか注目していなかった。また、無から物質が生じたり、物質がいきなり消滅したりということを考えていた。
そんな中で、彼は、反応生成物以外の「余り」に着目した。

ここまで来て,人類はようやく「化学反応の前と後は、元素同士の結び付き方が違うだけで、反応に加わる元素全体の種類と数は変わらない」ということを認識し始めた。これは後ほど「化学の革命」と高い評価を得ている。

「化学の革命」をきっかけに新しい元素が次々と発見され、物質の根源はこのようにして、形のない元素から形のある原子へと変わった。19世紀初頭に、「原子論」や「原子観」など原子についての世界観も形成されるようになった。

このような業績が生まれた背景には、彼の信奉する「正しい実験と精密な測定」という基礎があった。すべてのものを正確に測り記録してみなければ済まないというラボアジェの習性は若いころからのものであった。

「そこまで正確に測る必要があるのか」と当時の人々は彼をいぶかった。しかし正しい実験と精密な測定によってこそ、科学という学問に強固な基礎が与えられるものであることを、彼は誰よりもよく知っていた。
その輝かしい業績によりラボアジェは今日「近代化学の父」と呼ばれている。

ルイ16世支配時の1791年48歳の時に国家財政委員に就任し、フランスの金融・徴税システムを改革しようとした。しかし、あまりにも優れた化学者で、周囲のねたみもあり、また徴税請負人であったため、投獄されてしまった。

フランスの名誉ある化学者だからという嘆願を「革命に化学者は必要ない」と一蹴された。そして、裁判の結果1794年5月8日にギロチンの刑に処せられた。
当時最大の数学者 ラグランジュはこう言った。「ラボアジェの首を切るのはほんの一瞬だが、このような頭脳を産み出すのには100年あっても足りない」

ラボアジェは、生涯の研究において、ほとんど失敗が無かった。燃焼理論、比熱理論、質量保存の法則と、まるで、初めから「問題の答え」が分かっているようだった。そして彼は孤高の化学者だった。クールで、頭が切れ、誰よりも前を行っていた彼には共同研究者ができなかった。そんな彼を助けたのが、14歳年下の妻で、徴税組合長の娘だったが、驚くほどの才能に恵まれていた。

企業においても、会社組織の中では心の支えとなる人はできにくいものだが、家族の支えはかけがえのないものだ。人を使う立場の人は、社員の家族を意識した人間関係を構築すると、より活き活きとした会社組織を形成できる。


ラボアジェの本Lavoisier: Chemist, Biologist, Economist (Chemical Sciences in Society)
  ラヴワジエ―化学原論 (科学の名著)
  Memoires De Physiques Et De Chimie
  Lavoisier: Chemist, Biologist, Economist (Chemical Sciences in Society)