そそのかして搾取した

吉川英治

きょうは「宮元武蔵」を書いた国民文学作家 吉川英治(よしかわ えいじ、本名:英次 ひでつぐ)の誕生日だ。1892(明治25)年生誕〜1962(昭和37)年逝去(70歳)。

神奈川県久良岐郡中村根岸(現 横浜市中区山本町)で小田原藩下級武土の家に生まれた。父 直広は海運業界で羽振りが良かったが、突然事業に失敗し没落したため、英次は高等小学校を卒業目前で中退した。

英次は、印章店の小僧・少年活版工・雑貨商の店員・税務監督局給仕・海軍御用商の店員・日雇い・横浜ドックの船具工などなどさまざまな職に就き家計を助けた。ドックで高い足場から十数メートル落下して入院、九死に一生を得たり、時には年齢を偽って働くなど、社会の底辺を知った。
1910(明治43)年18歳のとき母の励ましで上京、町工場の職工となった。川柳雑誌で井上剣花坊と知り合い、その後「講談倶楽部」「面白倶楽部」「少年倶楽部」に雉子郎(きじろう)の筆名で投稿した。

そして、三越百貨店の「文芸の三越」に川柳で1等に当選した。1914(大正3)年には講談社の懸賞小説に『江ノ島物語』が1等に当選した。

1921(大正10)年29歳の時、山崎帝国堂の広告文案係となり、その後 東京毎夕新聞記者となった。1922(大正11)年、『親鸞』を連載した。1923(昭和12)年の関東大震災を契機に執筆活動に専念することを決意、精力的に活動をはじめた。『剣難女難』『鳴門秘帖』の連載で一躍流行作家となった。

1937(昭和12)年、日中戦争が勃発すると毎日新聞特派員として中国に赴き、翌年にはペンの部隊として作戦活動に従軍した。
1935(昭和10)年43歳の時から1939(昭和14)年まで、朝日新聞紙上で『宮本武蔵』の連載を開始し、大衆文学に新風を巻き起こした。

宮本武蔵』で剣禅一如の境地を求める求道者を描き、娯楽と教訓を両立させた作風を確立し英治の代表作となった。『宮本武蔵』は国民的大ブームを引き起こし、何回も映画化された。

1945(昭和20)年、終戦とともに一時執筆活動を休止したが、1947(昭和22)年 執筆を再開した。作品として、『神州天馬侠』(1925)、『新書太閤記』(1939〜1945)、『三国志』(1939〜1943)、『高山右近』(1948)、『平将門』(1950)、『私本太平記』(1958〜1961)などがある。

「英治」のペンネームは、「英次」の名で発表するつもりの作品が、掲載されるにあたり出版社が誤って「英治」としてしまったのを本人が気に入り、以後ペンネームとするようになったらしい。

英治のエピソード。ある授賞式のパーティーでのこと。徳川夢声に「吉川英治氏は結婚式も新婚旅行もしていない・・・」とスピーチされた。
それに対し、英治は言った、

夢声氏から暴露されましたが、私は結婚式はしなかったが新婚旅行は致しております。この点訂正致します。イヤそれのみではありません。賞を貰ったのは実は今度が初めてであります。競争馬の賞は一昨日買いましたが、これは無知なる動物をそそのかして搾取したものでありまして、取ったのは馬でしてこれは私の克ち得た賞とは言えないのであります」 

1953(昭和28)年61歳の時、菊池寛賞受賞。1960(昭和35)年68歳で文化勲章を受章した。
彼は“生涯一書生”と言い、“大衆即大智識”と言った。そうした精神で大衆小説を書いた人で、今なお国民的作家として多くの読者から支持を受けている。

吉川英治は、独学で小説家をめざし、『宮本武蔵』などの人物を娯楽感覚に教訓をまじえて読みやすい大衆小説として成功した。

企業における文章においても、ただ必要な要件だけでは印象に残る文章として記憶に残らない場合があり、少しのユーモアを入れた方がいい場合がある。しかし限度を越えないように注意しなくてはいけない。


吉川英治のことば
  「 勝つは負ける日の初め、負けるはやがて勝つ日の初め」
  「登山の目標は山頂と決まっている。しかし、人生の面白さは
   その山頂にはなく、かえって逆境の、山の中腹にある」
  「無心さ、純粋さ、素直さなどは人の心を打つ。
   その力は、こざかしい知恵をはるかに凌駕する」
  「よし今度も立派に乗り越えてみせるぞ。朝の来ない夜はないのだから……」
  「我以外皆我師」


吉川英治のDVD
  宮本武蔵 完全版 DVD-BOX 第一集、第二集
  NHK想い出倶楽部II~黎明期の大河ドラマ編~(3)太閤記 [DVD]
  NHK大河ドラマ総集編DVDシリーズ 新・平家物語
NHK想い出倶楽部II~黎明期の大河ドラマ編~(3)太閤記 [DVD]宮本武蔵 完全版 DVD-BOX 第一集


  
  
吉川英治の本
  宮本武蔵(一) (吉川英治歴史時代文庫)〜(8)
  三国志 (1) (吉川英治歴史時代文庫 33)〜(8)
  私本太平記(一) (吉川英治歴史時代文庫)〜(8)
  吉川英治の世界 (講談社文庫)
  人間吉川英治 (吉川英治幕末維新小説名作選集)
人間吉川英治 (吉川英治幕末維新小説名作選集)吉川英治の世界 (講談社文庫)三国志 (1) (吉川英治歴史時代文庫 33)宮本武蔵(一) (吉川英治歴史時代文庫)