忘れて違うことをする

都筑道夫

きょうは推理小説家、随筆家 都筑道夫(つづき みちお、本名:松岡巌 いわお)の誕生日だ。
1929(昭和4)年生誕〜2003(平成15)年逝去(74歳)。

東京都文京区に生まれる。1945(昭和20)年 早稲田実業を中退した。兄は落語家の鶯春亭梅橋(おうしゅんてい ばいきょう)で、ミステリィマニアだったので、その影響で早くからミステリに親しんだ。正岡容(まさおか いるる、1904〜1958年)、大坪砂男(1904〜1958年)に師事した。

1945(昭和20)年16歳で時代小説や落語原作などのライターになった。1947(昭和22)年、雑誌「スバル」の編集に従事。
終戦後はさまざまな筆名を使い分けて月刊雑誌、風俗雑誌に時代小説や探偵小説、コント、講談のリライト(目的に合わせて書き直すこと)を発表。1950(昭和25)年ごろから都筑道夫の筆名を主に使用した。
1954(昭和29)年25歳の時、処女長編「魔海風雲録」を出版。この後、翻訳家に転身した。1956(昭和31)年、早川書房に入社し、創刊されたばかりの「日本語版エラリィ・クイーンズ・ミステリ・マガジン」(後の「ハヤカワ・ミステリ・マガジン」)の編集長に就任した。

編集者として海外ミステリ、SF作品やショート・ショートを紹介した。
レミングの007シリーズを紹介したり、ハヤカワ・ファンタジィ(後のハヤカワSFシリーズ)を刊行、翻訳SF・ミステリの創生期、早川文化の一端を築いた。

1957(昭和32)年28歳の時、渡辺啓助矢野徹とともにSFグループ「おめがクラブ」から同人誌「科学雑誌」を発行した。1959(昭和34)年30歳の時、早川書房を退社し、本格的に推理小説の執筆活動に入った。

1961(昭和36)年32歳の時、中央公論社から出版した長篇「やぶにらみの時計」で作家に復帰。時代・伝奇中心だった活動をミステリにも広げた。「なめくじに聞いてみろ」「猫の舌に釘をうて」「三重露出」「誘拐作戦」など、凝った作風の奇想天外な作品を続々と発表、マニアの絶大なる支持を得て独自の地歩をきずいた。

作風も幅広く、本格推理小説(パズラー)、スリラー、長編アクション、時代伝奇小説、ショートショート、ハードボイルド、パロディ、連作SFなどさまざまなタイプの作品を執筆した。

1969(昭和44)年からは江戸風俗小説と化していた捕物帖を本格ミステリーの形に復活させた野心作「なめくじ長屋捕物さわぎ」を開始。
物部太郎、キリオン・スレイ、退職刑事、ビリイ・アレグロ、なめくじ長屋、滝沢紅子など、数々の探偵シリーズ・キャラクターを創出した。

そのころ、名探偵復活論に異を唱えた佐野洋との間に『名探偵は必要か、そうでないか』を論じた「名探偵論争」を繰り広げた。都筑は、もちろん名探偵必要論者で、「新本格の魁(さきがけ)」であった。

1975(昭和50)年46歳の時、ミステリ評論の先駆的名著「黄色い部屋はいかに改装されたか?」を発表。現代ミステリーの持つ問題点をわかりやすく指摘、後進作家に大きな影響を与えた。

その他、短編の多い作家としても知られていて、その数約800編は、星新一眉村卓に次ぐ記録である。短編では“ふしぎ小説”という独自の作風を確立し多くの作品を書いた。“日本で一番多く怪談を書いた作家”でもある。

1978(昭和53)年49歳の時、「神州魔法陣」で懐かしい伝奇小説の世界に復帰した。翌年、「翔び去りしものの伝説」でヒロイック・ファンタジーのジャンルに先鞭をつけた。

2000(平成12)年71歳の暮れ、かつて「ハヤカワ・ミステリ・マガジン」に連載されていた長大な自伝「推理作家のできるまで」がフリースタイルより刊行され、話題となった。

2003(平成15)年11月27日、転居先のハワイにて動脈硬化症による心臓麻痺のため死去。作家・評論家・編集者として日本ミステリ界に多大な足跡を残した。
別名小林昌夫、鶴川匡介、伊東映昌、結城勉、ジェフ・エバンス、フィリス・マクワゴン、リチャード・フィネガンなどがある。

日本ミステリの発展を実作・理論の両面から支えた偉大なる功労者でありながら、日本推理作家協会賞直木賞も受賞していないのが不思議な実力派であった。

都筑道夫推理小説を軸に、広範なジャンルの作品を書いている。推理小説というのは展開のアイデアと落ちの意外性だと思われるが、そのコツをうまく掴み、つぎつぎと作品のアイデアがあふれ出てくるのだろう。ベースにあるものは、幅広い知識といろんなものへの好奇心、およびそれをたゆまず実践する意志の強さだろう。

業務においても、なかなかアイデアが出なくて困る時がある。
解決方法として、ひとつには、アイデアが出るまでトコトン自分を追い詰めて考え抜くことだが、案外効果的なのが、しばらく忘れて違うことをする方法だ。それは違う仕事であったり、誰かと話をしたり、簡単なストレッチなどだ。
そして再び取り掛かると、ふっとアイデアが浮かんでくるから不思議だ。


都筑道夫の本
  猫の舌に釘をうて (光文社文庫)
  魔海風雲録 (光文社文庫)
  なめくじに聞いてみろ―昭和ミステリ秘宝 (扶桑社文庫)
  推理作家の出来るまで (上巻)(下巻)
  都筑道夫のミステリイ指南 (講談社文庫)
推理作家の出来るまで (上巻)なめくじに聞いてみろ―昭和ミステリ秘宝 (扶桑社文庫)魔海風雲録 (光文社文庫)猫の舌に釘をうて (光文社文庫)