おやっと思う感性

野副鉄男

きょうはトロポノイド化学の父と言われた科学者 野副鉄男(のぞえ てつお)の誕生日だ。
1902(明治35)年生誕〜1996(平成8)年逝去(93歳)。

仙台で生まれた。東北帝国大学化学科に入学。卒業後は新設の台北大学に勤め、1937(昭和12)年35歳で教授になった。

この台北時代に彼は、タイワンヒノキ材の精油を研究しているうち、融点が51〜52℃の痰黄色から白色のヒノキの香りのする結晶を得て、これを「ヒノキチオール」と命名した。

その後、研究が進み、ヒノキチオールの化学構造が解明され、炭素7個が環状に結合(7員環)した芳香族化合物であることが明らかになった。当時このような7員環を持つ物質は天然物にはほとんどなく、大変珍しい物質だった。
このヒノキチオールのような7員環の核を特に「トロポロン」と呼び、この骨格を持った化合物を「トロポロン類(トロポノイド)」と呼んでいる。このようなトロポロン類はヒノキ科特有の成分だそうだ。

彼の研究成果は、1950(昭和25)年48歳の時にロンドンで開かれた「トロポロン研究会」で全世界の注目を集めた。彼はこのヒノキチオールの研究業績により、学士院賞文化勲章、勲一等瑞宝章を受章している。東北大学名誉教授などを務め、仙台市の名誉市民にもなっている。

野副鉄男は、研究中にふとしたことから偉大な発見をし、それが彼のすべてのようになっているが、その発見もおやっと思う感性が無かったらできなかっただろうし、発見後もその物質がいかに優れたものであるかを証明しなくてはいけない。

企業においても、どんな大きな出来事であっても、その始まりはほんの些細な変化であり、これを見つけると言うか、感じることができるかどうかが問題だ。それは物理現象であるとは限らず、マーケットにおいての商品のニーズであったり、人の気持ちの変化だったりする。

★ヒノキチオール★
優れた殺菌作用をもっていて、いろいろな方面に有効な薬理作用を示す物質である。たとえば白癬菌大腸菌チフス菌などに対し低い濃度で阻止力を示し、熱帯性潰瘍に対してもきわめて満足すべき結果を得ている。 

殺菌作用のほかに、すぐれた消炎作用があり、また浸透力が強く、皮膚の深部に入り皮膚の細胞に適度の刺激を与え細胞の新陳代謝を正常化する働きがあり、強力な細胞賦活剤として認められている。

さらに、歯槽膿漏に対する治療、予防効果や口臭除去の効果、円形脱毛症の治療効果あるいは毛髪発育の促進作用があるという臨床報告もある。これらの作用は、基礎美容料には欠かせない働きとなっていて、かつ副作用がないことが大きな特徴である。

最近利用された例
○防腐剤
 1989(平成元)年には化学合成品以外の食品添加物として認可された。食品への活用が増加すると予測される。
○育毛剤
 殺菌、消炎、細胞活性などが認められ、養毛剤が医薬部外品として利用されている。
○化粧品
 皮膚病の原因細菌及び糸状菌に対し優れた抗菌性を示すため化粧品中に調合され、医薬部外品として市販されている。



野副鉄男に関する本
  岩波講座 現代化学への入門〈7〉有機化合物の構造
  青森ひば物語
  木のこころ〈No.29〉特集 青森ひば/基礎と土台のポイント
岩波講座 現代化学への入門〈7〉有機化合物の構造