追い詰められた経験

草野心平

きょうはカエルの詩人 草野心平(くさの しんぺい)の誕生日だ。1903(明治36)年生誕〜1988(昭和63)年逝去(85歳)。

福島県石城郡上小川村(現 福島県いわき市小川町)に5人兄弟の次男として生まれた。家庭の事情により、兄弟のうち心平だけが祖父母に預けられて育った。
幼い頃から大変わんぱくで、本を食いちぎり、鉛筆をかじり、誰かれとなく人に噛みつく「野生児」の激しさをもった子供だったようだ。4歳年上の兄 民平、母 トメヨ、および9歳年上の姉 綾子が相次いで結核で亡くなったのは、心平が13歳のことだった。

地元の小学校から県立磐城中学校へ進学、1919(大正8)年16歳で上京し、慶応義塾普通部を経て慶應義塾大学へ入学するが、いつしか海外への夢がふくらみ、昼は英語、夜は北京語を学ぶようになった。そして慶応義塾大学を中退し、1921(大正10)年18歳のとき、中国の広州に渡り、広東嶺南大学(現 中山大学)に留学した。
若くして死去した兄が3冊のノートに書き残した詩に触発され、中国留学中に詩作を始めた。同級生から「機関銃」と呼ばれるほどたくさんの詩を作った。中国での在学中に亡兄との共著詩集『廃園の喇叭(らっぱ)』等を刊行、詩誌「銅鑼(どら)」を創刊した。1925(大正14)年、排日英運動が起こり帰国せざるを得なくなった。

帰国後は、新聞記者、屋台の焼鳥屋貸本屋、居酒屋、出版社の校正係など、さまざまな職業を転々としたが、商売上手ではなかったようで、放浪と貧困の連続だった。1928(昭和3)年25歳で結婚、前橋での新婚時代は、新聞紙が卓袱台(ちゃぶだい:食卓)代わりで、食べるものにも事欠くという貧窮ぶりだった。
このころ、面識のない宮沢賢治あてに「コメ1ピョウタノム」と電報を打ったとか、「火の車」という酒場を開いたものの、興が乗ってくるとカウンターから飛び出して客と一緒に飲んでしまって商売にならなかったとか、逸話はつきない。

宮沢賢治に電報を打ったのは、農場を持っているから・・・と考えたからだった。ところが、賢治からはすぐに「これを処分して米にかえてほしい」という手紙と、分厚い本が何冊か送られてきたという。

初の活版印刷での詩集『第百階級』が世に出たのはこの年1928(昭和3)年のことだった。そして、1930(昭和5)年27歳のとき詩誌「学校」、1935(昭和10)年32歳のとき中原中也らと「歴程」を創刊した。

カタカナ、ひらがな、漢字を自在に操って、人々の生活感情を蛙(かえる)や石や天などのユニークな素材でうたいあげた。蛙を通して生命力への賛美と自然のエネルギーをうたう「蛙の詩人」などと称され、独自の詩の世界を築いた。作品の多くに擬声語や句点の駆使されているのが特徴とされている。

同人誌の存続にも力を注ぎ、晩年の宮沢賢治との文通、高村光太郎萩原朔太郎など先輩詩人との親交などを通し、詩人としての世界も広がっていった。
宮澤賢治の没後、その作品の紹介に力を尽くし、賢治を世に紹介した功績も高く評価されている。

蛙がとりもつ縁で1960(昭和35)年57歳のとき福島県双葉郡川内村(天然記念物モリアオガエルの生息地)の名誉村民にもなり、毎年村を訪れ、自分の蔵書を村に寄付した。晩年は1966(昭和41)年、この地に建設された「天山文庫(てんざんぶんこ)」で一夏を過ごすことを慣例としていた。

1928(昭和3)年の第一詩集『第百階級』以後、30冊の単行詩集、評伝三部作『わが光太郎』『わが賢治』『村山槐多』のほか、多数の著作があり、『宮沢賢治全集』『高村光太郎全集』『八木重吉全集』ほかの編纂に携わった。また書とパステル画に優れ、1965(昭和40)年以降十数回にわたり書画展を開催した。

草野心平は、もともと詩人としての才能はあったのかもしれないが、父親の再婚に反発したこともあり、若くして自立せざるを得なかったようだ。赤貧の時代もあり精神的に追い詰められた経験が、のちに詩が認められるようになった時に人の心を打つことになる。

企業においても、順調な時代が続くとは限らず、これ以上は耐えられないという気持ちになることもあるはずだが、何とかそれを乗り越えることができれば、それはプラスの要因として役立つはずである。あきらめてしまえば、マイナスのままで、いわゆる負け犬になってしまう。何としても、乗り越えなければならない。


草野心平のビデオ
  草野心平 ほとばしる詩魂 [VHS]


草野心平の本
  草野心平詩集 (旺文社文庫 56-1)
  私の中の流星群―死者への言葉
  定本 蛙 (愛蔵版詩集シリーズ)
  富士山―草野心平詩集・棟方志功板画
  草野心平―わが青春の記 (人間の記録)
  唸る星雲・草野心平 (現代詩人論叢書)
草野心平―わが青春の記 (人間の記録)富士山―草野心平詩集・棟方志功板画定本 蛙 (愛蔵版詩集シリーズ)