山桜の美しさを感ずる心   

本居宣長

きょうは江戸中後期の国学者 本居宣長(もとおり のりなが、通称:春庵、号:鈴屋 すずのや)の誕生日だ。
1730(享保15)年生誕〜1801(享和元)年逝去(71歳)。

伊勢国松坂(現 三重県松阪市)で江戸店持ちの木綿問屋 小津(おづ)定利の長男として生まれた。宣長11歳のとき、父 定利が江戸で病没し、小津家の家運が傾き始めた。この後、宣長を始め、母かつ、弟親次、妹はん・しゅんの5人家族は、魚町の隠居所に移り住んだ。宣長は当初、伊勢山田の商家の養子となるが、歌や書物を好み商売に関心が向かなかった為、実家に戻る。宣長の読書量は人並みはずれていたらしく「学問の為であるとか、ではなく、手当りしだいに古い近い関係なく日本や中国の本を読みあさった」と述べている。

1752(宝暦2)年22歳のとき、母の配慮で京に上って医学修業のかたわら国学を志し、源氏物語などを研究した。このころ姓を本居に改めた。この遊学中に師である朱子学者 掘景山の書を通じて契沖の説に巡り会い、古典研究の方向を見い出した。5年間の遊学の後、故郷の松阪に戻った宣長は小児科医開業の傍らで、古典研究を行い、それに関しての講議を行っていた。
このころ研究を通じて文学の心髄は「もののあはれを知る心」であるという独自の見解を確立した。「もののあはれ」とは、「感ずべきことに心を動かすこと」つまり、儒教や仏教的道徳に捕われず、「美しい花を見たら美しいと感ずる心」である。

1763(宝暦13)年33歳のとき、宣長は後の彼の人生に大きな影響を及ぼす賀茂真淵(かものまぶち)と出会う。真淵は当時『万葉集』研究などで有名な人物で、旅の途中松阪へ立ち寄ったことを知り、その宿に駆けつけ真淵との対面を果たした。この時、67歳の真淵は宣長に「私は『古事記』を研究しようと思ったができそうもない。あなたはまだ若いのだから、『古事記』研究をしなさい。」と諭した。これが有名な「松阪の一夜」である。

この翌年、宣長は正式に真淵に入門し、手紙によってその教えを受けることになる。そして古道研究に力を注ぎ、35年を要して1798(寛政10)年68歳のとき大著「古事記伝」44巻を完成した。この『古事記伝』は現在に至るまで『古事記』研究の最高峰であり、これを超える研究書は出ていないといっても過言ではない。出版が完了したのは、宣長が亡くなって21年後の1822(文政5)年だった。

宣長は儒仏を排して古道に帰るべきを説き、また「もののあはれ」の文学評論を展開し、一時期を画した。晩年には名実ともに国学界の中心となり、門下生は石塚龍麿・夏目甕麿(みかまろ)・高林方朗(みちあきら)・小国重年・竹村尚規・本居春庭宣長の実子)・本居大平宣長の養子)など全国で500人に上ったといわれる。
荷田春満(かだのあずままろ)、賀茂真淵平田篤胤(ひらたあつたね)等と供に国学の四大人とされる。

宣長は桜をこよなく愛した人で、桜ばかりを詠んだ歌集まである。最も有名なのが、「しき島のやまとごころを人とはば朝日ににほふ山ざくら花」である。「日本人の心を訪ねられたならば、朝日に匂う山桜の美しさを感ずる心である」という意味か。これこそ宣長の思想の中心に有る「もののあはれ」である。

国学(こくがく)は、古き日本の歴史や文学などについて研究する学問である。宣長の功績は、古事記を通して、江戸時代の人々に古き日本の人々の姿(すがた)を紹介したことである。このことが、昔の日本は良かったという印象を与え、江戸幕府を倒す一つの要因になった。

本居宣長は、商才は無かったようだが、文才には恵まれていたようで、幼少の頃からの読書量は想像を越えたものであったようだ。当時、大量の本が手の届くところへあった幸運が人生を決定付けている。

企業において、いくら現場主義といっても書物を抜きに知識や技術の習得は考えられないし、体系的に学ぶのは要領よくまとめられた本が有効である。しかし、近頃は膨大な数の本があるので、適切なものを選ぶことが必要である。


本居宣長のことば
  「天地万物、皆吾賞楽の具なるのみ」:全ての物は私の見て楽しむ物である。
  「学問は年月長く怠けずに続けることが肝要であり、
   学び方はどのようであっても良い。
   学問は途中で断念することなく長く続けなさい」


本居宣長の本
  古事記伝 1 (岩波文庫 黄 219-6)〜4(4)
  宇比山踏 (和泉書院影印叢刊 (9))
  直毘霊・玉鉾百首 (岩波文庫)
  本居宣長全集(セット) 全23巻―全20巻・別巻3
  本居宣長(上) (新潮文庫)(下)
  本居宣長 (岩波現代文庫)
  小林秀雄講演 第3巻―本居宣長 [新潮CD] (新潮CD 講演 小林秀雄講演 第 3巻)
  本居宣長事典
  本居宣長―言葉と雅び
  本居宣長の国語教育―「もののあはれをしる」心を育てる
本居宣長―言葉と雅び本居宣長事典本居宣長 (岩波現代文庫)本居宣長(上) (新潮文庫)