他人の追随を許さず   

牧野富太郎

きょうは「日本の植物学の父」 牧野富太郎(まきの とみたろう、幼名:成太郎)の誕生日だ。
1862(文久2)年生誕〜1957(昭和32)年逝去(94歳)。

高知県高岡郡佐川町に酒造と雑貨を営む裕福な商家の長男として生まれた。父を3歳の時、母は5歳の時に病気で亡くした。そして、6歳の時には祖父も亡くした。その頃、成太郎から富太郎と改名した。生来植物を好み、幼少より裏山で草木を友として育った。

10歳の頃から、寺子屋や私塾などに入って高度な教育を受けていたこともあり、佐川小学校に入学するが、授業に飽きたらず2年で中退した。
その後は植物の採集などをして過ごし、買い与えられた「重訂本草綱目啓蒙」で植物の名前を憶え、採集しては細かく調べて分類、保存し、その植物の様子を精緻にスケッチした。これが後まで続く彼のライフワークとなった。そして家の資産を植物研究に全て注ぎ込んだ。
1884(明治17)年22歳の時の、二度目(一度目は19歳)の上京で、東京大学理学部植物学教室への出入りが許され、矢田部教授や松村任三教授と知り合った。その後、同教室の助手、非常勤講師を歴任。しかし、正式な学歴の無いことや生活態度があまりにも奔放であるなどから他の研究員たちから次第に孤立し冷遇されるようになった。植物の事以外には全く無頓着で、寝食や家族をも忘れてしまうという性格が、ある意味無責任であったり、研究の成果が、矢田部、松村両先生から妬まれたりもしたようだ。

1887(明治20)年25歳の時、市川延次郎、染谷徳五郎と「植物学雑誌」を創刊した。彼はこの雑誌の創刊を上京前から考えていたようで、高知の石版屋で石版印刷の技術も学んでいた。その他、ロシアの植物学者 マキシモヴィッチに標本を送るなどした。そしてこの年、育ててくれた祖母を亡くした。
26歳の時、「日本植物志図篇」の刊行を開始した。自ら作画をし、自費出版だった。これは大学からも注目された。この年には、小澤壽衛(すえ)と結婚。根岸に新たに所帯を構えた。

1889(明治22)年27歳の時、日本で初めて新種の植物に”ヤマトグサ”と学名を付けた。その年、高知県の横倉山で発見したコオロギランの標本をマキシモヴィッチに送った。その翌年、東京小岩でムジナモを発見。富太郎の名を世界に知らしめた。しかし、矢田部教授から植物学教室出入りを禁じられてしまった。富太郎は自分に好意を抱いてくれているマキシモヴィッチのもとへ赴こうとしたが、マキシモヴィッチが急死したことにより、ロシア行きは断念した。

1893(明治26)年31歳の時上京し、東京帝国大学理科大学助手となった。その後、「新撰日本植物図説」の刊行、「大日本植物志」の発行などを次々とした。苦しいながらも、料亭をしていた妻の助けで研究を続けた。50歳の時に大学講師となり、採集や雑誌の発刊など成果をあげていった。経済的に困難になりながらも、支援や援助を受け研究を続けた。

1927(昭和2)年65歳の時、理学博士の学位を受けた。同年12月、マキシモヴィッチ生誕百年祭の帰途、仙台にて新種のササを発見。翌年、妻の壽衛が死去(54歳)し、発見した新種のササに妻の名を入れた”スエコザサ”と命名した。

その後も採集、調査、講師活動、学生指導、図鑑の発行などを行った。77歳で、講師を辞任した後も「牧野日本植物図鑑」、「植物記」、「続植物記」、「牧野植物随筆」など著書を数々残した。
1949(昭和24)年、大腸カタルで危篤となったが、奇跡的に回復した。

1954(昭和29)年92歳で、風邪をこじらせ肺炎となり床に臥した。病に臥したままで、1956年「植物学九十年」、「牧野富太郎自叙伝」を刊行した。
独学・苦学の研究者 牧野富太郎は94歳で亡くなったが、多くの著書、標本などを残し日本の植物学に多大な業績を残した。

彼は植物の種類に通暁し鑑定の的確なことでは他人の追随を許さず、日本の本草学を植物分類学へと転換した第一人者である。その反面、近代生物学の理論的な面はほとんど理解しなかったようだ。
命名した植物は2500種、残した標本は数約50万点。「日本の植物分類学の父」とも言える人物である。「牧野日本植物図鑑」は植物学の枠を越えた総合事典とも言われ、時代を越え読みつがれているが、自らを「草木の精」と称した彼が、植物だけではなく、自然、生物、人間を愛して記した日記とも言える。

牧野富太郎は、植物に魅了され一生を植物の研究のみにささげた人物だが、やはり幼少期に両親や祖父を亡くしたことが植物へのめり込む要因の一つであったのではないか。
学歴や家庭の問題などで、コンプレックスを感じたりやる気をそがれたりすることがあるが、その反動として、業務にとことん打ち込むということで乗り越えることができれば、一石二鳥である。


牧野富太郎の本
  原色牧野日本植物図鑑〈1〉 (コンパクト版)〜(3)
  牧野富太郎植物記 全8巻
  植物知識 (講談社学術文庫)
  牧野植物随筆 (講談社学術文庫)
  牧野富太郎植物画集
  牧野富太郎自叙伝 (講談社学術文庫)
  草を褥に―小説牧野富太郎 (サライBOOKS)
  牧野富太郎―私は草木の精である (平凡社ライブラリー (388))
牧野富太郎―私は草木の精である (平凡社ライブラリー (388))牧野富太郎自叙伝 (講談社学術文庫)牧野植物随筆 (講談社学術文庫)植物知識 (講談社学術文庫)