すべての面で不経済に   

五島慶太

きょうは東急を創設した「電鉄王」 五島慶太(ごとう けいた)の誕生日だ。1882(明治15)年生誕〜1959(昭和34)年逝去(77歳)。

長野県青木村で、農業 小林菊右衛門の次男で末子として生まれた。旧制長野県立上田中学校(現 上田高校)、松本中学校(現 松本深志高校)を卒業。経済的理由から上級学校への進学をあきらめ、小学校の代用教員をするが、向学心が強く、学費不要の東京高等師範学校(現 筑波大学)へ進学した。

卒業後、三重県で中学校の英語教諭をしたが、教員の世界に飽き足らず、さらに最高学府への進学を志し、当時難関中の難関とされた旧制第一高等学校の卒業資格試験に挑戦、見事これに合格した。東京帝国大学法科大学政治学科を卒業する時にはすでに29歳になっていた。

30歳のとき、皇居二重橋の設計者として知られる久米民之助の長女 万千代と結婚した。このとき、久米家の祖母の家系で既に廃絶になっていた五島家を再興することになり、五島姓に改姓した。万千代との間に2男2女をもうけた。
高等文官試験に合格し、農商務省に入省後、鉄道院監督局総務課長にまで昇進した。官から民への時代の流れもあり、1920(大正9)年38歳の時、乞われて武蔵野電気鉄道の常務に就任。東京横浜電鉄と改称し、専務となった。 その後、目黒蒲田電鉄を設立、専務に就任。その後両社の社長となり、二つを合併、東京横浜電鉄とし、関東有数の私鉄に育て上げた。
その一方で、東京地下鉄の乗っ取り、三越の乗っ取り事件等強引な経営手法で物議を醸し、乗っ取り王「強盗慶太」の異名をとった。

五島専務評。「太いステッキを振りながら、ドシンドシンと木造バラック建ての床を響かせて2階一隅の外から丸見えの専務室に入る。とたんに机上の各幹部を呼ぶベルの釦を片っ端から押しまくる。本社内各所にベルが鳴り渡り、幹部連中がアタフタと専務室に駆け込む。時折大きな怒鳴り声も聞こえて、会社中が急に活気付いてくる。五島専務の側へ行くと、頼もしい我らが親分という感じがし、張りと勇気が湧いてきた」

1942(昭和17)年60歳の時、国策の追い風を受け、京浜急行電鉄(京浜電気鉄道)と小田急電鉄の合併を行い、東京急行電鉄を発足させた。さらに、京王電鉄(京王電気軌道)を合併し、相模鉄道など、東京西南部全域の私鉄網を傘下に収め、大東急に成長させた。

五島は鉄道沿線に学校を誘致していく方針を強行した。そして、各線は学生であふれ、利用者数は大幅にアップしていった。
後に五島は述懐した。「交通業者というものは、多く手っ取り早く安直に考えて、商工業を誘致したがるものである。私は、こうしたものには全く関心を持たず、学校の誘致に力を入れた。小林一三氏からはいろいろの知恵や指針を受けた。しかし、学校を誘致することだけは、私自身の発案であり、いささか誇りに思っている」

戦時中の1944(昭和19)年、東條英機内閣の改造で運輸通信大臣に就任し、敗戦を迎えた。戦後、公職追放を受け、その間に東京急行電鉄は分割された。追放解除後、実業界に復帰し、横井英樹白木屋(デパート)乗っ取りに手を貸し、これを東急百貨店に吸収、「強盗慶太」の健在ぶりを知らしめた。
戦後の財閥解体で、東急は小田急、京王、京急を分離したものの、戦後の郊外宅地の需要の高まりもあって、業績は順調に伸びていった。五島は開発の目を観光に向け、箱根・伊豆、長野などの開発に心血を注いだ。

五島は"強盗"であることを自らも認めている。「交通事業というものは、小さな会社が群雄割拠して競争していては、能率は悪く、乗客にはサービスを欠いてしまう。とくに東京のような大都市では、都心と住居を結ぶ、スピードのある設備のりっぱなものをつくらないとすべての面で不経済になる。そのためには、ある程度の規模までは、統合・吸収し大きくしなければいけない」

その後、東洋精糖買収が暗礁に乗り上げる中、五島は倒れた。
五島は、強引な企業買収で知られているものの、伊豆半島の開発、多摩田園都市の開発など、その壮大な事業構想は、企業家として高く評価される。
また多角的な事業経営を展開をする一方、図書館やプラネタリウムを設立するなど文化事業にも力を注いだ。東急社長・日本商工会議所会頭等を歴任した五島昇は慶太の長男。

五島慶太は、関西で大成功した小林一三との連係を密にし、かつその成功例を参考にしながら、強引に事業を進めている。娯楽施設より教育施設に目をつけたことも大きな勝因である。これにより、会社や本人のクリーン度も増したはずだ。

企業においても、社会への貢献を抜きにすると企業イメージが上がらないため、結局は利益をあげられないことになる。特に地域社会との関わりは大切にしないといけない。社員が、自分が働いている会社を自慢できるようになりたいものだ。


五島慶太の本
  東急・五島慶太の経営戦略―鉄道経営・土地経営
  飛竜の如く―小説・五島慶太 (光文社文庫)
  光芒と闇―「東急」の創始者五島慶太怒涛の生涯 (Ryu selection)
  東急の挑戦―五島慶太から昇へ (ビジネスコミック・チャレンジ21)
  もう一人の五島慶太伝 (勉誠新書)

もう一人の五島慶太伝 (勉誠新書)東急・五島慶太の経営戦略―鉄道経営・土地経営