可能性の極限   

南方熊楠

きょうは植物学者、民俗学者で「知の巨人」 南方熊楠(みなかた くまぐす)の誕生日だ。
1867(慶応3)年生誕〜1941(昭和16)年逝去(74歳)。

和歌山城下の金物商 南方弥兵衛・妻スミの次男として生まれた。幼いころから人並みはずれて賢く、記憶力も素晴らしかった。父 弥兵衛はその才能を伸ばすため、当時の商人の家としては珍しく、開設されたばかりの和歌山中学(現 桐蔭高校)に入学させた。少年時代は、学校の授業に出ず、植物の採集に山ばかり入り、数日行方不明になったことから天狗にさらわれたと噂され、「てんぎゃん」いわゆる「天狗さん」と呼ばれていた。

また、近所の家で書物を見せてもらい、記憶して家に帰って、それを図まで書き入れて筆記し、漢文で綴られた当時の百科事典「和漢三才図会」百五巻などの写本を作り上げた程、神童ぶりを発揮した。後に熊楠は、十数か国語を使いこなしたということで、既に少年時代にして、その非凡な才能が開花していた。

1883(明治16)年 和歌山中学校卒業後、上京、東京大学予備門に入学したが、学校の授業には興味を覚えず、戸外に出て考古遺物や植物、貝類などの標本を採集することが多かった。結局 熊楠の学問への欲求が満たされず1886(明治19)年 退学した。
20歳で渡米し、動植物の実地調査・研究に没頭した。その後26歳でロンドンへ渡り、科学雑誌「ネイチュア」に「東洋の星座」という論文が掲載され、その名が知られ、大英博物館の嘱託職員に迎えられた。大英博物館では、仕事をしつつ、読書と筆写に明け暮れ、その中で作り上げた「ロンドン抜書」は、民俗学博物学等について、52冊・1万800ページにわたり丁寧に書きつけている。

1900(明治33)年34歳で帰国し、3年あまり植物の宝庫である熊野の山々を踏破調査し、37歳から田辺に住み続けるようになった。1906(明治39)年40歳で闘鶏神社の神官の娘の田村松枝と結婚。1男1女をもうけた。
ここに南方植物研究所を設置し、中国建国の父 孫文民俗学者 柳田国男など世界の諸学者と交流しつつ、博物学民俗学をはじめとして、あらゆる分野にわたる研究生活を送った。ミナカテルラ・ロンギフィラ(南方の長い糸)など70種もの新種の粘菌を発見し世界的業績を挙げた。

また、1929(昭和4)年62歳の時に昭和天皇が紀南地方にお越しになった際、熊楠が保護に努めた田辺湾に浮かぶ神島(かしま)に天皇を迎え、御召艦「長門」上で進講した。そのとき百十点余りの粘菌の標本をキャラメルの箱に入れて御進献したことは、熊楠らしさのあらわれた有名なエピソードだ。
熊楠が亡くなった21年後、1962(昭和37)年に再び来られた天皇陛下は「雨にけふる神島をみて紀伊の国の生みし南方熊楠を見ふ」と熊楠を偲んで詠まれた。

彼は、日本が近代化に躍起になっていた明治から昭和の初期という時代にあって、18ヶ国語を解し、博物学、宗教学、風俗学など多くの領域にわたるが、生物学、特にキノコや粘菌など隠花植物の世界的な学者であり、また日本の民俗学創設において重要な役割を果たした。他方、環境保護に先駆的に取り組み、近代日本の独創的な思想家として高い評価を受けている。

中央学会から離れて活動し、在野で学問一筋の生涯を送ったため、長らく伝説的存在であったこの巨大な思想家 南方熊楠は、没後50周年を経て、ようやくその真価が認められつつある。従来、奇人学者として取り上げられることの多かった熊楠が、実は当時の日本にあって最も力強い学問の流れを形成しようとしていたことが、定説として認知されるようになってきている。
「日本人の可能性の極限」とまで賞賛された熊楠の深遠な精神のなぞ解きは、まだ始まったばかりだ。

南方熊楠は、世界的な植物学者とか民俗学者として知られているが、それは彼の才能の一部分でしかなかったはずだ。日本という国が彼の才能を把握することができず、理解できなかったようだ。もし熊楠が現代に生きていても、日本に限らず世界は彼の才能を理解できないのではないか。

企業においても、あまりにも優れた人の存在は上司を含め周囲の人が理解できないため、結局普通以下の人としてしか活かすことができないことになる。もったいない話だが、現在の経営方法は多数決とか平均値で判断することが多いから致し方ない。規模の大小を問わず、異才を活かす経営ができれば、その企業は飛躍的な発展が期待できる。


南方熊楠の本
  南方熊楠選集 第1巻 十二支考 1〜(7)
  南方熊楠コレクション〈第1巻〉南方マンダラ (河出文庫)〜(第5巻)
  十二支考 (上) (ワイド版岩波文庫 (220))(下)
  猫楠 南方熊楠の生涯 (角川文庫ソフィア)
  南方熊楠 地球志向の比較学 (講談社学術文庫)
  縛られた巨人?南方熊楠の生涯? (新潮文庫)
  南方熊楠―森羅万象を見つめた少年 (岩波ジュニア新書)
南方熊楠―森羅万象を見つめた少年 (岩波ジュニア新書)南方熊楠 地球志向の比較学 (講談社学術文庫)十二支考 (上) (ワイド版岩波文庫 (220))南方熊楠選集 第1巻 十二支考 1