相いれなくなる   

ウィリアム・モリス

きょうは装飾芸術家であり社会主義運動家 ウィリアム・モリス
(William Morris )の誕生日だ。
1834年生誕〜1896年逝去(62歳)。

英国ロンドンのウォルサムストウで、裕福な中産階級家庭に生まれた。この地は、19世紀の「産業革命による都市化」の影響をもろに受けた土地で、生まれ故郷の変遷がモリスの生涯に大きな影響を与えたようだ。親元を離れパブリックスクールの寮生活を送ったウィルトシャーの風景、大学時代をすごしたオクスフォードの町、大学生のころ訪れた北フランスとフランドルの中世の町、アイスランドの荒涼とした風景なども、モリスの創作に影響を与えた。

モリスは聖職者になるためにオクスフォード大学に入学したが、英国ビクトリア朝を代表する美術評論家 ラスキンの影響を受け建築学に興味が向かった。さらに大学在学中に友人のバーン・ジョーンズとともに、画家 ダンテ・ガブリエル・ロセッティに師事した。その後、バーン・ジョーンズビクトリア朝を代表する画家になった。
ロセッティを中心にオクスフォード大学学生会館の壁画の制作中、ロセッティの紹介で、貧しい家庭に育ち個性的な魅力を秘めた女性、ジェイン・バーデンと結婚した。しかし、モデルをしていた彼女はロセッティとも深い仲になり、それをモリスも容認するという、異様な三角関係であったようだ。

1859年25歳のとき、友人の建築家フィリップ・ウェッブに赤レンガの素朴で住み心地のよい新居「レッド・ハウス」の設計を依頼し、モリスは家具や室内装飾を仲間とともに施した。その経験が、ウェッブ、バーン・ジョーンズ、ロセッティらを含むデザイナーの共同体として、1861年に美術職人集団「モリス・マーシャル・フォークナー商会」(以下 モリス商会)を作り上げる契機となった。

大英帝国産業革命のさなかで、機械化による大量生産の製品が世にあふれていることに疑問を感じたモリスは、「すべての装飾の仕事には芸術的監督が必要である」として、装飾全般の仕事にあたって「作品」を「商品」として高品質なものを供給するシステムをつくり上げた。
モリス商会は、初めステンドグラス類の製作を主な業務としていたが、1862年のロンドン万国博で家具、刺繍なども高く評価された。

モリスは壁紙や内装用布地など平面デザインに腕を振るった。植物をモチーフとした壁紙は、自然の生命の豊かさを感じさせつつ、これを二次元の世界に見事に溶け込ませている。モリスは大学在学中に自然さとパターン化のバランスについて、中世後期の写本装飾画の植物図案などから学んだようだ。日本人が古来から愛してやまない花鳥風月の自然もデザインモチーフになっている。

モリス商会の製品は良質で美しくても高価で、富裕階級にしか入手できない品物を生み出すことになっていた。やがて、良質なデザインのもたらす生活の豊かさが理解されるようになり、世界中の画家や建築家をクラフトやデザインに転向させることにつながった。絵画や彫刻と言った「大芸術」ではなく、日常生活の中で民衆に役立つ「小芸術=モダンデザイン」を志向し、「モダンデザインの元祖」と言われた。

デザインの改良とそれを通じた社会改良をめざすモリスたちの動きを一括して「アーツ・アンド・クラフト運動」と呼ぶが、この動きはヨーロッパ大陸でのアール・ヌーボーの誕生につながった。また、20世紀初頭にドイツに設立されたデザイン学校「バウハウス」にも影響した。
「アーツ・アンド・クラフツ運動」は、特定の富裕階級のみが享受できる「大芸術 Arts」だけを芸術とするのではなく、「小芸術 Lesseer Arts」もしくは「工芸 Crafts」も芸術である、という考え方で、日常生活用品を大量生産の工業製品によらず、中世以来の手作業による芸術品で賄おうという理想を追い求めた。

1870年代に入り、モリスは私生活上の問題や商会経営の危機など、様々な困難と戦いながら、新たな精神のよりどころを求めてアイスランドへ旅をした。そこで、苛酷な大自然のなかで、貧しくても共に生きる人々の姿に接し、表面的には豊かなイギリスの社会的不平等を実感し、社会主義的思想を抱くようになった。このような社会意識は歴史意識とも結び付き、社会主義活動に先立ち、古建築物の保護運動にも邁進した。

モリスは、彼のユートピア社会主義が当時の労働組合運動家などの社会主義相いれなくなるにつれて、書物のデザインに多くの時間を割くようになった。当時のイギリスの商業印刷に対抗するかのように、「ケルムスコット・プレス」を設立し、理想の書物の制作に乗り出した。プライベート・プレスの先駆けである。詩人であり思想家であり、デザイナーであったモリスらしい晩年の活動であった。

モリスは生まれ故郷や暮らした町、旅行した町などに芸術性を見出し、また植物を観察しモチーフにしている。同じ風景や植物を見ても、全く気にとめなかったり感動したりするのは、やはりその人の感性によるところが大きい。

企業においても、その人に問題意識があるかどうかで、問題点が全く見えなかったり、鋭く問題点が指摘できたりする。毎日見慣れて、同じパターンを繰り返している職場は、特に問題点が見えにくいものであることを認識しなくてはいけない。


モリスの本
  民衆の芸術 (岩波文庫 白 201-2)
  サンダリング・フラッド―若き戦士のロマンス (平凡社ライブラリー)
  世界のはての泉 (上) (ウィリアム・モリス・コレクション)(下)
  ウィリアム・モリス―ラディカル・デザインの思想 (中公文庫)
  ウィリアム・モリスへの旅
  ウイリアム・モリスの全仕事
  ウィリアム・モリスの楽園へ (ほたるの本)
ウィリアム・モリスの楽園へ (ほたるの本)ウィリアム・モリスへの旅世界のはての泉 (上) (ウィリアム・モリス・コレクション)サンダリング・フラッド―若き戦士のロマンス (平凡社ライブラリー)