ビジネスモデルの創造   

ディオール

きょうはフランスの服飾デザイナー クリスチャン・ディオールの誕生日だ。
1905年生誕〜1957年逝去(52歳)。
フランスのノルマンディー地方グランビルで裕福な実業家の家に生まれる。父親の希望に従い外交官を志して、政治学院で政治学を学んだが、在学中に当時、台頭していたシュールレアリスム:超現実主義に魅せられ、友人と画廊を開設した。ここでダリやコクトーなど多くの芸術家と親交を深めるが、1930年代の恐慌に見舞われ失職した。
このとき、友人からデッサンを習い、帽子のデザインのスケッチが好評を博したのを機に、服飾デザイナーを志望する。1938年33歳の時、ロゲール・ピゲに見込まれてモード界に入った。
1941年に、ルシアン・ルロンのメゾン:店へ移り、ここでピエール・バルマンを知った。第2次世界大戦で出征し、除隊後にはルロン店のモデリストを務めた。
1946年43歳のとき、繊維業界で成功した大富豪で、当時コットン王と呼ばれていたマルセル・ブサックと出会った。ディオールはプサックに「エレガントな女性と最上級な女性のためのクチュリエ:高級婦人服デザイナーになりたい」と語ったと伝えられている。
この時、ディオールがプサックに会いに行く途中、ディオールは道に落ちていた星型の馬車の部品につまずいた。それを拾って、ポケットに入れたままブザックに夢を語った。以後、星はディオールのラッキーモチーフとなった。
ディオールはブサックの援助を受け、その年の12月、現在のパリ・モンテーニュ街に、メゾン「クリスチャン・ディオール」を発足した。
1947年、ディオールは最初のコレクションで「コロール(花冠)ライン」を発表した。これを、ハーパース・バザール誌の編集長キャメル・スノウが「ニュー・ルック」と呼び、この名前が広まった。ニュールックは、丸みを帯びたなだらかな肩に胸、ウエストは細く絞られ、スカートは布を贅沢に使い(戦後すぐでモノがあまりない時代に)、ペチコートで膨らませたラインが床上り20cmまで伸びる女性らしさを引き出した華麗なスタイルだった。シャネルによって機能的な美しさがアピールされた後に、ディオールはフェミニンな美しさを改めて強調した。
このラインによって、世界中の女性のスカートが、従来の怒り肩のラインと短かいものから、なで肩と優美なロング・スカートへと変化し、ファッション革命をもたらした。以後世を去るまでのわずか10年間、ディオールは「モード界の帝王」として君臨することになる。
1948年にはアメリカにおいてライセンス生産を開始した。アメリカに「クリスチャン・ディオール・ニューヨーク」という別会社を作り、ニューヨークの靴下会社プレスティージ社と契約し「クリスチャン・ディオール」ブランドのナイロンストッキングの製造を許可した。
これが、ブランドによるライセンス生産のはしりといわれている。
その後、ライセンスはネクタイ、下着、ソックス、アクセサリーと拡大し、ディオールは200を越すライセンスを抱えていた。また、同時にこの方式を婦人服にも応用しオートクチュール:高級婦人服だけでなく、アメリカの既製服業者と組んで、ディオールのデザインによるドレスを高級既製服:プレタポルテとしてアメリカでの製造・販売を開始した。オートクチュールからプレタポルテへと拡大することで、ディオールはファッションを芸術だけでなくビジネスとしても成功させた。
続いて、次々とデザインを発表し、その都度センセーションを巻き起こした。シーズンごとに新しいラインを名づけて発表するというのもディオールがはじめたことである。これはマスコミにも受け入れやすく、一般大衆にもわかりやすくするためで、ディオールは戦後のファッション界が一部のお金持ちのためではなく、一般大衆の手にゆだねられることをこの時点で理解していた。
1955年50歳のとき、ソルボンヌ大学大講堂でデザイナーとして初の講演を行った。ここで、ディオールは自らの服飾デザイナーとしての仕事を「伝統を新しさの中に生かすこと」と語った。
1957年心臓発作により急逝した。メゾンは若干21歳のイブ・サンローランが引き継ぐことになった。これにより、デザイナーの死後もメゾンは残り、ブランドを引き継ぐというビジネスモデルが成立することとなった。
優美で華やかなデザインは今なお愛され、世界のモード界において、惜しみない幸福を謳歌する世界中の女性たちを虜にし続けている。
ディオールの業界での偉業は、デザインそのものが独創的で優れていたこともあるが、ビジネスモデルの創造と言う面で大いに評価されるべきだ。デザインの発表の方法、ライセンス生産プレタポルテ、ブランドの継承などだ。
企業においても、商品の販売はこのようなビジネスモデルが重要であり、ここにおいて戦略・戦術の確かさが必要とされるのだ。


クリスチャン・ディオールの本
  クリスチャン・ディオール―ディオール・ロマンチックがとまらない!! (Cartop mook―ブランドモールmini)
  ディオールと華麗なるセレブリティの物語
  手縫いの料理―ムッシュ・ディオールの食卓より
  ディオールの世界
  クリスチャン・ディオール
クリスチャン・ディオールディオールの世界ディオールと華麗なるセレブリティの物語



 1948年の作品