途絶えることを覚悟で

きょうはドイツの言語学者、文学者のグリム兄弟の兄　
ヤーコブ・グリムの誕生日だ。
１７８５年生誕〜１８５９年逝去（７４歳）。
ドイツ、ハーナウで「正しく生きれば間違いなし」を座右の銘とする法律家の父親と良妻賢母の母親のもとに、次男として生まれた。弟のウィルヘルムは翌年生まれ、その後弟妹が次々生まれ９人兄弟だが、その内長男を含む３人は子供のうちに亡くなった。使用人を何人もおいた大きな家に住み、裕福で幸福な幼年時代を送った。
ところが父が４４歳で亡くなり、収入が途絶えたとたんに一家は困窮することになった。ヤーコプが一家の面倒を見たが、経済的にはたいへん苦しかった。
そのなかでもヤーコブは、伯母の援助で名門リュツェウム（古典語高等中学校）を首席で卒業後、マールブルク大学で法律学を学び、ここでドイツの古い文化に関心を抱くようになった。そして法律学者より言語学者や文学研究者をめざす決心をし、大学を中途退学した。
その後、図書館司書やゲッチンゲン大学、ベルリン大学の教授の仕事をしながら、ゲルマン語の研究を続けた。本業は童話作家ではなく学者なのだが、１８０６年２１歳のときから、童話や伝説を集め始めている。
またヤーコブとウィルヘルムの兄弟は詳細なドイツ語辞典の編纂を一生続けている。この辞典はヤーコプが亡くなって１０３年後に完成した。
１８１２年２７歳のとき「子どもと家庭の童話」を出版し大好評を博した。これにグリム童話として有名なものが、殆ど収録されている。そして世界中の国々で翻訳出版され、童話オペラやバレエ、人形芝居、映画にもなった。
１８４８年に革命が起きると、ヤーコプは国民議会の議員に選出されるが、革命的気運が衰退するとともに政治から離れ、ふたたび研究に専念した。
グリム兄弟は、民族学や言語学、伝説・童話研究を学問的におこない、２１０の童話と５７９の伝説を世に送り出している。
弟のウィルヘルムは結婚したが、一生独身を通し学問一筋のヤーコプと一緒に住み、生涯共に仕事をした。ウィルヘルムの妻ドロテーアは、グリム兄弟と幼なじみで、童話の語り手のひとりでもあった。ドロテーアはヤーコプの世話もし、またヤーコプもウィルヘルムの３人の子ども達の面倒を良く見たようだ。
二人は正反対の性格で、ヤーコプは強固で、ウィルヘルムは優しい性格だったが、兄弟仲は良かった。一時期、離れて暮らした時、二人は恋人同士のような手紙のやりとりをしている。
赤貧の生活をしながら一家を支えているグリム兄弟は、収入を得るために数多くの書物の出版をしている面もあるようだが、ゲッティンゲン大学での七教授追放事件では、権力に追随せず、収入が途絶えることを覚悟で自分の態度を貫いている。
企業における社員の立場も同じようなものだが、今は当時の状況に比べはるかに贅沢な生活をしているにもかかわらず、つい自分の意見を抑えてしまうことがある。それが企業のためになるのならまだしも、社内の活性を削ぎ業務の停滞を招いてしまうこともあり、勇気を出して自分の意見を言えるようになりたい。

★七教授追放事件★
ヤーコプは１８３０年、ウィルヘルムは１８３５年にゲッティンゲン大学の教授になった。当時この大学はヨーロッパにおける最高の学術機関の一つとされ、高名な学者たちが教壇に立っていた。
１８３７年、イギリスからエルンスト・アウグスト三世がきて、ハノーファー王位を継承した。彼は憲法を破棄し、議会を解散させ、ゲッティンゲンを含むハノーファー王国に絶対主義を復活させようと、「すべての公務員は、王個人の"しもべ"として仕えることを宣誓せよ」という布告を出した。
王はゲッティンゲン大学の学長でもあり、グリム兄弟も王への忠誠を誓わねばならない立場だったが、彼らは他の著名な教授五人とともに、王に対する抗議声明を発表し、即座に解雇された。
彼らの姿勢は学生や知識人に広く支持されたが、グリム兄弟は職を失い、収入が途絶えた一家はふたたび経済的苦境に陥った。

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