何の目的のために   

国語学会創立二十周年号

きょうは国語学者 橋本進吉の誕生日だ。1882年生誕〜
1945年逝去(62歳)。
現在の福井県敦賀市に生まれ、1906年に文科大学言語学科を卒業。文部省 国語調査委員会補助委員を経て、1920年に東京帝國大学教授に就任した。また1945年には「國語學界」(2004年1月1日「日本語学会」に改名)初代会長に選任された。
上代特殊假名遣の研究が有名で、古代の日本語には八つの母音があることを発見した。また、文法論にも新たな体系を打ち立て、「文節」を重要視し、学界だけではなく教育界にも大きな影響を与えた。その文法体系は「橋本文法」と呼ばれ、現代日本語文法において大きな位置を占めている。
博士は戦前、「現代かなづかい」の様な表音的仮名遣を許さなかった。表音的・音韻的な「仮名遣」は一切仮名遣いとはいえない事を述べた論文「表音的仮名遣は仮名遣にあらず」は、気ままにふるまっている国語改革推進派への警告の文章であり、これを見た改革推進派は震へ上がったようだ。しかし博士が没すると、それを待っていたかのように改革推進派は国語改革を強行した。
近年「現代かなづかい」のために都合よく改変されてしまっているが、「橋本文法」は現在の「教科書文法」の基礎となっている。
博士の提唱した品詞を基にコンピュータ用のかな漢字変換は実現されている。現在の高効率連文節変換は、実は博士の恩恵を受けているのである。
博士は清廉潔白な性格で、戦時の物不足の時もヤミ物資にかかわることを潔しとせず、1945年1月に栄養失調で亡くなった。
日本語が乱れているということはマスコミなどで報道されるところだが、文章やことばが何の目的のためにあるかということを考えた時には、使いやすく進歩すべきだと考えざるを得ないのではないか。
会社で使う言葉は、専門用語を含めて、自社だけのものなのか、一般的に他社にも通用するものなのかよく考えて使わないといけない。
文字や言葉は、通常、伝達が目的であるから、よりわかりやすいことが大切だ。


橋本進吉のことば
  「ふりがなの国民一般に対する国語教育上の効用を認める故に、
   いかなる場合にもふりがなを廃すべしといふ論には賛成しかねる」


橋本進吉の本
  橋本進吉博士著作集 (第12冊)
  南京遺文南京遺方
  校本萬葉集 新増補版〈第七冊〉自巻第十一 至巻第十三
  古代国語の音韻に就いて―他二篇 (岩波文庫 青 151-1)